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第30話 僕を愛していなかったと、ここで言えるのか

last update Data de publicação: 2026-09-30 09:18:36

「君は、どうしたい」

 燎の問いが、静まり返った会場に残った。

 正臣の手は、まだ私へ差し出されている。

「灯里」

 正臣が私の名を呼んだ。

「僕を愛していなかったと、ここで言えるのか」

 卑怯だった。

 会社でも、特許でもない。

 大勢の前で、私たちの八年間が愛だったのか、嘘だったのか、答えろと迫っている。

 こんな場所で、愛しているかと迫るなんておかしい。

 でも答えなければ、正臣は私の沈黙まで「愛している」に変える。

 愛していなかったとは、言えなかった。

 正臣を愛していた。

 結婚式の日、彼の手を取った時は、この人となら何があっても生きていけると思った。

 奏汰が生まれた夜、正臣は泣きながら私を抱きしめた。

 初めて三人で朝を迎えた時、この幸せが一生続くと信じた。

 嘘にはできない。

「私、あなたを愛していた」

 会場がざわめいた。

 燎を見る者もいた。

 私も燎を見た。

 彼の顎が固くなり、下ろした手が握られている。

 聞きたくないはずなのに、止めなかった。

 私が正臣との八年間を、自分の言葉で終わらせるまで待っている。

 
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  • 夫がメイドを私の名前で抱いた――すべてを奪われた元・天才医療研究者は、冷徹社長に溺愛される   第47話 本当に欲しいもの。それは――

     燎は私を見つめたまま、笑みを深めた。  昨日、控室でキスをした時と同じくらい、目が熱い。  燎が身をかがめ、私の耳元へ唇を寄せた。 「ますます、手放したくなくなるな」  私にしか聞こえない、低い声だった。  熱い吐息が耳たぶをかすめ、首筋までぞくりとした。  今、そんな声で言わないで。  昨日のキスの続きを、欲しくなってしまう。  燎の顔を見るのが悔しくて、私は神崎教授へ目を戻した。  神崎が燎へ向き直った。 「鷺宮さん。では、外で待っていただけますか」  燎は引いていた椅子を戻した。私と神崎教授、エリックを順に見る。 「終わったら、呼べ」  扉が閉まってから、私は端末をテーブルへ置いた。  神崎教授には、医療の現場で何が必要かを聞いた。エリックとは、今の技術でどこまで作れるかを話した。二人の助言を受けて、考えていた構想が、新しい製品の設計としてまとまっていった。  新しい特許も狙えると、エリックは言った。  早く作りたい。奪われたものを取り返すだけでなく、今度は、自分の新しい製品で勝ちたい。  昼前には、二人とも一緒に開発すると言ってくれた。  私が考えたものを、この二人も作りたいと思ってくれた。それが嬉しかった。  扉を開けると、燎が廊下で電話を切った。  早く話したくて、私は彼の前まで歩いた。 「新しい特許も狙えるって!」  燎は私の顔を見て、笑った。 「もう、そこまで話したのか」 「うん。新しい製品の設計ができたの。二人とも、一緒に作ってくれるって」  言いながら、また嬉しくなった。  今度は、最初から私の名前で作るのだ。 「まだ、ちゃんと作れるかは分からないけど」 「だから、あの二人が加わるんだろう」  燎は私の肩に手を置き、顔をのぞき込んだ。 「俺の紹介だけで、あの二人は動かない」  私も、この人にもっと話したかった。今日、二人と考えたことを、まだ半分も伝えられていない。  何より、嬉しい時に、まず燎の顔を見たくなった。彼が笑うと、また話したくなる。 「お昼、一緒に食べない?」  燎の手が、肩から背中へ回った。 「その誘いなら、断らない」 ***  その日の夜、久条の屋敷で、莉乃は正臣の寝室にいた。  階下では、志津子が柊吾と会社の話をしている。夕食に招いたのだと、使用人から

  • 夫がメイドを私の名前で抱いた――すべてを奪われた元・天才医療研究者は、冷徹社長に溺愛される   第46話 俺にこの方たちを呼ばせておいて、俺を追い出すか

    「……そんなこと、言ってない」  説明会後の控室で、燎を見上げた。  何を言っているの。こんなところで。  そう続けるつもりだったのに、燎に腰を引き寄せられると、言えなくなった。  近づいた唇に、吐息が触れる。 「なら、離せ」  燎が、私のつかんでいる手首へ目を落とした。  離したら、この近さも終わってしまう。  それが嫌で、私は指に力を込めた。 「……いやよ」  燎の目が私の唇へ下がった。  今、自分が何を言ったのか分かって、顔が熱くなる。それでも、手は離せなかった。  唇が触れた。  思っていたより柔らかくて、すぐに離れたのが物足りなかった。  もう一度、触れたい。  首に手を回して、今度はもっと深く口づけたい。燎にも、私と同じくらい夢中になってほしかった。  手首から指を離し、その肩へ手を伸ばしたとき、扉の向こうで足音が止まった。 「続きは明日よ」 「明日もあるのか」 「仕事の話」  燎が笑う。  私も、今度は一緒に笑ってしまった。 ***  翌朝、奏汰の朝食と薬を見届けてから、私はSENOVAの開発室へ向かった。  約束の時間より少し早く着いたのに、神崎修一教授は、もう長いテーブルの向こうに座っていた。  小児消化器の共同研究を率いる医師だ。白髪の混じる短い髪と、動画で見ていた丸い眼鏡を見て、思わず足が止まった。  その隣に、エリック・ウォルシュがいる。海外の複数病院をつなぐ情報基盤を作った技術者で、背が高く、腕まくりしたシャツに細い時計をつけていた。  父と講演を見ながら、いつか直接話を聞いてみたいと言っていた二人だ。  半年先まで予定が埋まっている人たちが、本当に目の前にいる。まだ試作品もできていない、私の研究のために。  燎は、本当にこの二人を呼んでしまった。  なんて人なの。  手にしていた端末を持ち直した。  父にも見せたかった。でも、今日は私が話すのだ。 「桐谷灯里です。お時間をいただき、ありがとうございます」  神崎が立ち上がり、握手をした。 「お父様とは、一度お会いしました。あなたが続きを作っているそうですね」  父の名前を知っているのか。  嬉しかった反面、急に緊張した。期待されるのはありがたい。でも、父の娘だからで終わりたくなかった。 「最初は息子のためでした。今

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